Baer, M. (2012). Putting creativity to work: The implementation of creative ideas in organizations. Academy of Management Journal, 55(5), 1102-1119. ★☆☆ 【2018年1月10日】

 創造性(creativity)がその実施(implementation)につながっているのかどうかを、世界的な農産物加工会社1社の従業員216人の質問票データ(自身の創造性に対する自己評価を含む)と彼らのアイデアが実施段階に達した頻度に関する上司87人の評価データを使って調べた論文。

 従業員の質問票では、他にもワーク・モチベーションで有名なVroom的な手段性(instrumentality)、ネットワーキング能力、強い紐帯などが調べられている。交互作用項を入れた重回帰分析を行ったところ(Table 2)、創造性×実施手段性×ネットワーキング能力、創造性×実施手段性×強い紐帯の3元の交互作用が有意になったので、Dawson & Richter (2006)の方法を使って、ネットワーキング能力の効果をFigure 1で、強い紐帯の効果をFigure 2で、それぞれグラフで図示して分析している。どちらの図も、孤立した人(低実施手段性×低ネットワーキング能力、低実施手段性×低強い紐帯)に限って、自分では創造性が高いと自己評価している人ほど、上司は実施につながっていないと酷評する傾向がある。

 さて、これは一体何を意味しているのか? 要するに、創造性をめぐる自己/他者評価データを使って「孤立した人は独りよがりで、自己評価と他者評価の間にひどく乖離がある」という一般的な傾向を明らかにしただけだろう。本質的に、創造性とは関係のない論文である。別に創造性でなくても、優秀さや美しさなどでも同じような傾向が出てくるのではないだろうか。それらの可能性を徹底的に排除しない限り、これだけでは創造性について何も言えたことにならない。


《参考文献》

Dawson, J. F., & Richter, A. W. (2006). A significance test of slope differences for three-way interactions in moderated multiple regression analysis. Journal of Applied Psychology, 91(4), 917-926.


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