Bijker, W. (1995). Sociohistorical technology studies. In S. Jasanoff, G. E. Markle, J. C. Petersen, & T. Pinch (Eds.), Handbook of science and technology studies (pp. 229-256). Thousand Oaks, CA: Sage. ★★★ 【2016年7月20日】

 オランダの堤防技術を例示としながら、社会学的な「技術」研究をレビューした論文。まず技術的な人工物の発達についての三つのモデルが挙げられる。

  1. 唯物論的(materialistic)モデル: 堤防技術は、機械化や材料技術革新で誘発されたかなり自律的な過程で発達したと考えるモデル
  2. 認知論的(cognitivist)モデル: 機械化は需要増に対する解であると考えるモデル
  3. 社会的形成(social shaping)モデル: 国家介入は技術の社会的形成の一形態である

 そして社会技術的アンサンブル(sociotechnical ensembles)の登場となる。論文ではオランダのデルタ計画(Deltaplan)が事例として記述される。この事例の記述の仕方は、技術重視の技術決定論でもなく、社会重視の社会的形成でもなく、技術と社会が同レベルで相互に影響しあいながら堤防技術が発達したように描かれている。

 どうも要するに特定のモデルや視点からではなく、事例を公平に丹念に描くことが社会技術的アンサンブルということらしい。ただし、社会技術的アンサンブルのアプローチが、(a)システムズ・アプローチ、(b)アクターネットワーク・アプローチ、(c)技術の社会的構成(SCOT)アプローチからなると言われてしまうと、意味が分からなくなる。そもそもこの論文で言っている(a)システムズ・アプローチは、一般的な「システムズ・アプローチ」とは意味が違う。Hughesの研究のことを指していると言った方が正確だろう。Bijkerはもともと(c)のSCOTの人として技術の社会的形成を主張していたわけで、そんな中で(b)のLawから批判されて、公平な社会技術的アンサンブルを打ち出したとされる。そこにSCOTがアプローチとして入っていること自体が不可思議である。実際、Bijkerは入れることを躊躇したらしい(p.251の最後の行)。社会技術的アンサンブルまで来てしまうと、SCOTの持っていたある種の切れ味のようなものは失われる。なんだか、投稿時はいろいろ問題があっても切れ味鋭い分析をしていたのに、レフェリーやエディターの意見を聞いているうちに、だんだん何が言いたいのか分からなくなったジャーナル論文の雰囲気である。

 これが社会学的な「技術」研究の到達点なのです、と言われれば、ああそうなのですかと受け入れるしかないが、だとするといまだにSCOTをさも新しい研究アプローチだと言ってやっている経営学は、何十年も社会学に遅れているということになる。その意味では、SCOT的な研究を志す人にとっては必読文献であろう。


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