Dore, R. P. (1973). British factory-Japanese factory: The origins of national diversity in industrial relations. Berkeley, CA: University of California Press.
邦訳, ロナルド・P・ドーア (1987)『イギリスの工場・日本の工場: 労使関係の比較社会学』(山之内靖, 永易浩一 訳). 筑摩書房.


 間と共同で日立製作所の日立工場・多賀工場を、そして英国のイングリッシュ・エレクトリック社の2工場を調査して比較した英国の社会学者ドーア(Ronald Philip Dore; 1925-)は、日本の大企業では「英国ならばミドル・クラスの職員に限られている特権である年金や疾病手当のような付加給付、かなりの程度の雇用保障、家族生計費の出費増に応じた賃金の上昇などを、現場労働者にまで与えている」と日英間の雇用システムの違いを指摘している(Dore, 1973, p.264 邦訳p.293)。そして、日本の工場について、間と類似した企業福祉集団主義を指摘した。しかし実は間もそうだったのだが、ドーアは日本的経営の集団主義的性格については、戦後の社会民主革命を経てもなお残る前近代的な家父長主義的性格のものという考えはとらなかった。それどころか、ドーアは逆に、日本の工場の企業福祉集団主義を、産業社会が向かいつつある発展傾向の最も先端的な姿として捉えていたのである。

 もともとドーアは、英国など先発先進国が市場志向型から日本的な組織志向型雇用システムへ移行していると仮説を出していた。つまり、雇用の期間と条件は、労働者の熟練が他の雇主から外部市場においていかなる対価を受け取るかということから影響される度合をますます弱めていき、各企業独自の相対的ランク付けの内的構造に適した比較的安定的な長期雇用の存在を予想するものへと移行するとしていたのである。しかし出版当時(1973年)は、英国の学会でそのようなことを発表すると、「とんでもない」と退けられるのが普通だったという。ところが、やはり1980年代後半になると、事情はかなり変わってくる。当時、日本語版(1987年)に寄せられた「日本語版への序」によれば、英国では、

  1. 国家レベルの団体交渉から企業・工場レベルの交渉へ
  2. 敵対的労使関係から協約に基づいた協調的労使関係へ
  3. 属職的給料制度から属人的給料制度へ
  4. 企業内訓練・企業内社会保障制度の進展
  5. 労働移動の低下
などが顕著に現れてきていたという。


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