Gibson, C. B., & Gibbs, J. L. (2006). Unpacking the concept of virtuality: The effects of geographic dispersion, electronic dependence, dynamic structure, and national diversity on team innovation. Administrative Science Quarterly, 51(3), 451-495. https://doi.org/10.2189/asqu.51.3.451 ★☆☆ 【2022年6月15日】


 バーチャル・チーム(virtual team)はイノベーションに良いといわれているが、実は、バーチャル性が高まるとイノベーションは阻害され、それを防ぐには心理的安全性が有効だと唱える論文。この論文では、先行研究から、バーチャル性(仮想性virtuality)は、次の4次元にまとめられるとしている。

  1. 地理的分散(geographic dispersion)
  2. 電子的依存性(electronic dependence): 電子ツールを使ったコミュニケーション
  3. 構造的ダイナミズム(structural dynamism): メンバー、役割、関係が頻繁に変わる
  4. 国籍多様性(national diversity)
そのうえで、いずれもチーム・イノベーション(team innovation)と負の相関があり(仮説1〜4)、心理的安全性がその負の影響を低減する(仮説5)と仮説を立てている。

 研究1 (Study 1)は、7産業の14チームに177件のインタビュー(1〜2時間/件)調査を行ったもので、地理的分散と国籍多様性はBlauの公式を使って指標化している。電子的依存性と構造的ダイナミズムは、二人の評価者の1〜3の3段階評価の平均をとっている。心理的に安全なコミュニケーション環境とイノベーションは、インタビューでの関連単語の相対出現頻度で測っている。その結果、地理的分散、電子的依存、国籍多様性はイノベーションに負の相関があったが、構造的ダイナミズムはほぼ無相関だった。地理的分散と国籍多様性の負の影響は心理的に安全なコミュニケーション環境で緩和されたらしい。

 研究2 (Study 2)は、研究1を補完するもので、最新鋭の次世代軍用機を設計する一つの会社の56チーム266人の定量的な研究で、地理的分散と国籍多様性は研究1と同様にBlauの公式を使って指標化し、電子的依存性、構造的ダイナミズム、心理的に安全なコミュニケーション環境はアンケートの5点リッカート尺度の回答をもとに指標化、イノベーションは「可能な限りを100%として、このチームがどの程度イノベーションに有効であったかをパーセンテージでお答えください」で測定している。そのうえで、心理的に安全なコミュニケーション環境×4次元の4つの交互作用項を入れた回帰分析をしているのだが、その結果を示すTable 6は、4次元が有意に負はともかく、交互作用項がおかしい。誤植でないとしたら、4つの交互作用項のうち、2つは有意に正なのだが、2つは有意に負になっていて、にもかかわらずFigures 1a〜1dの4枚のグラフはすべて同じ符号として描かれている。これでは結論まで含めて間違っているとしか言いようがない。

 さらにいえば、Edmondsonの心理的安全性の議論では、心理的安全性があればパフォーマンスが高くなるわけではないとされ、心理的安全性は、できることをせずに済ますブレーキを取り除くのであり、だから他の関係を強めたり弱めたりするモデレータ変数なのだ(Edmondson, 2019)と説明されている。ところが、研究1のTable 3でも、研究2のTable 5でも心理的安全性(心理的に安全なコミュニケーション環境)とパフォーマンス(イノベーション)との相関は強く、特に研究2では4次元よりも強い。明らかに直接効果のある変数にモデレータ効果って一体何なのだろう?

 この論文がなぜか引用もせずに無視しているバーチャル・チームで有名なLipnack and Stamps (1997)によれば、そもそもバーチャル・チームとは、地理的に離れていたりしてチームを組めなかった人々を電子的手段等によりバーチャルでもいいからチームに編成できればパフォーマンスが上がるというお話である。実は、Lipnack and Stamps (1997)自身が、バーチャルでチームを作ることは大変なんだけど、それでも、バーチャルでもいいからチームを作った方がいいと説いていた。しかるに、この論文では、バーチャル性なるものを作り出し、よりバーチャルになればイノベーションを阻害すると展開して、さもバーチャル・チームはイノベーションを阻害しているといわんばかりに結論する。これは詭弁であり、「よりバーチャルになれば」とは、要するに「本来のチーム(=オンサイト・チーム)ではなくなるほど」と同義ではないか。つまり、本来、チームがない状態と比較すべきバーチャル・チームを、オンサイト・チームと比較したのでは、比較の向きが真逆になっていて、無茶苦茶である。バーチャル・チームの推奨者たちは、批判・抗議すべきだろう。

 とはいえ、もともとのバーチャル・チームの話から離れてしまえば、「コロナ禍でテレワークにせざるを得なくなってイノベーションが低下した」問題を、結果的にはコロナ禍の15年も前に議論していたことにはなる。ただし、研究2の結論は間違いだし、心理的安全性も関係なくて、論文としてはダメな論文だと思うけど。


《参考文献》

Lipnack, J., & Stamps, J. (1997). Virtual teams: Reaching across space, time, and organizations with technology. New York, NY: Wiley. (榎本英剛訳『バーチャル・チーム: ネットワーク時代のチームワークとリーダーシップ』ダイヤモンド社, 1998)


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