Lilien, G. L., Morrison, P. D., Searls, K., Sonnack, M., & von Hippel, E. (2002). Performance assessment of the lead user idea-generation process for new product development. Management Science, 48(8), 1042-1059. ★★★【2015年11月4日】

 米国3M社で導入されたLU(lead user)法(論文中では、LU processとLU methodが混在)の効果について分析した論文。LU法は次の4段階(phase)からなる(pp.1044-1045)。

  1. 【第1段階: 目標生成とチーム編成】企業がプロジェクトのアイディア化目標(ideation-goal)を出し、LUプロジェクト・チームを編成する。チームは、マーケティング部門と技術部門の経験豊富な3〜5名からなり、リーダーを1人決める。メンバーは週に12〜20時間をプロジェクトに使い、期間は4〜6カ月。チームは、ターゲットとなる市場と必要な革新水準を選ぶために関連のある重要な社内関係者(relevant key company stakeholders)と作業する。
  2. 【第2段階: 動向調査】探索分野の市場・技術動向の把握・理解に集中する。メンバーは従来の情報源から始め、市場のリーダー的専門家を体系的に特定、インタビューし、これから焦点を当てる重要動向を選ぶ。
  3. 【第3段階: LU Pyramid Networking】自分よりもさらに専門的な人を紹介してもらうことを繰り返すことで、「芋づる式」にLUに近づいていき、特定する。
  4. 【第4段階: LUワークショップとアイディア改良】招待したLUと10〜15名でLUワークショップを行う。最初は小集団で構想を練り、それから全体で技術的実現可能性、市場性、経営的優先順位を評価する。

 3Mは1996年からLU法を使い始め、2000年5月までに7つのLUプロジェクトが完結し、そのうち5つに予算が付けられた。LUプロジェクトを行っていた部署は同時に他に42の非LU(non-LU)法の予算付プロジェクトももっていた(p.1046)。

  1. 横断的標本としては、この5つのLU予算付アイディアと42の非LU予算付アイディアが比較される(p.1047)。LU法の5つの製品タイプは全て大躍進(breakthrough)だが、対照的に非LU法では1つだけが大躍進で、41が漸進的(incremental)だった(pp.1051-1052, Table 2)。
  2. 経時的標本としては、同じ5つのLU予算付アイディア。LUプロジェクトを行っていた部署が1950年〜2000年に行っていた21の非LU法による主要製品ライン(p.1049)。

 結果のデータは、LUプロジェクト・チームのリーダーに、(A) LU法はチームから回答者を選び、(B) 非LU法は同じ部門で部門や製品ラインの歴史を知るベテランに声をかけてもらい、Appendix 1の質問リストを使って、1999年2月〜2000年5月に集めた (この他にパーソナリティに関するprocess surveyも行っている) (p.1050)。

 横断的標本で LU法5 対 非LU法42 を比べたのが表1、経時的標本で、LU法5 対 非LU法16 (21ではない理由は後述)を比べたのが表2で、両表はLU法の列は同一である。横断的標本の表1ではLU法の方が、新奇性(novelty)、潜在力(potential)が高いようだが、これは予算がついたばかりの新規プロジェクトの自己申告だから当然か。表1も表2もLU法の方が「5年後売上高(sales in Year 5)」「5年後市場シェア」が大きいというのは目を引くが、これは要注意である。

 実は、「5年後売上高(sales in Year 5)」は、(i) 1994年より前に商業化した製品は実際のデータを使うが、(ii) 1994年以降に商業化したものは調査時点ではデータがないので、単なる予想(forecast)でしかないのである。LU法は1996年から使い始めているので、当然のことながら5つとも(ii)で予想である。経時的標本の非LU法の方は、2つは(ii)で予想、それ以外は(i)で実際の売上高なので、データのないものは標本から除かれ、この段階で標本サイズは21から16になる(p.1053, Table 3, Note)。要約(p.1042)でも強調されているLU法の製品の5年後の平均売上高が1億4600万ドルもあり、非LU法よりも何倍も大きい・・・という独り歩きしている結論も、所詮は希望的観測の域を出ない代物である(LU法の「5年後市場シェア」もご同様)。商業化から5年たって(そもそもLU法のアイディアは予算が付いただけで、商業化されたかどうかも定かではない)、実際の売上高、市場シェアの数字が出てから書くべき論文だろう。これほどしつこく方法論的パッチを張りまくって(本文を読むとうんざりする)ディフェンスをしている割には、あまりにも結末がお粗末で、ある意味、驚くべき論文である。

 しかし、本当の意味で驚くべきことは、わずか数行にあっさり書かれている「(LU法第4段階では) LUワークショップで生まれたアイディアの権利は3Mに譲渡される」という記述である(p.1056)。そうした情報交換の場では、秘密保持契約でガチガチになっていることが普通なのに、どのようにしたら、そんなに寛大な契約書にLUがサインするように誘導できるのかを知りたいものである。仮にLU法が成功しているとしたら、その成功の鍵は間違いなくそこにある。


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