ペンローズ(Edith T. Penrose; 1914-1996)の『会社成長の理論』は有名な古典である。特に、1980年代半ばにリソース・ベースの戦略論の議論が登場すると、この書物が、企業は本質的に、経営管理的枠組みで組織化されて利用される資源のプールであると考え、企業によって資源の利用の仕方は異なり、同じタイプの資源でも企業によって異なるサービスを生み出すとしていたとされ、RBV (the resource-based viewe)の基本文献としての地位も獲得する。RBVは企業の資源側の立場から、競争優位の創造と維持と再生を資源の特性とその変化に結び付けて説明しようとするもので、1984年にWernerfelt (1984) とRumelt (1984) の2つの記念すべき論文が出版されると、この2本の論文に続いてRBVの重要な研究が多数現れることになる(高橋, 新宅, 2002)。
実は、ペンローズの『会社成長の理論』は、抽象的で難解であるというだけではなく、1990年代の半ばまで長らく版が絶えていて、大学の図書館でしかお目にかかれない珍品でもあった。日本でも、初版からその翻訳は存在してきたが、お世辞にも読みやすい翻訳とは言えず、しかもこれまたすぐに絶版となり、日本の古書市場では高額本の部類に入っていた。原典も翻訳も入手が困難な古典だったのである。そのため1995年にペンローズ自身の手による前書きをつけて第3版が出版されると、日本の洋書屋さんでは隠れたベスト・セラーになったといわれる。
しかし、ペンローズの書物に対するRBVのような要約・評価は、間違っているとはいえないものの、かなり部分的なもの、あるいは側面から眺めたものである。このような要約の仕方では、そもそもなぜペンローズが書名を『会社成長の理論』にしたのかが理解できない。ペンローズの主張とは一体どのような全体像だったのだろうか。ペンローズの主張する「会社成長の理論」を正面から理解する鍵は、「成長の経済性」の概念にある。規模の経済性とは別の概念としての成長の経済性とは何なのか、その謎解きの続きは高橋(2002)で。
なお、第3版の翻訳は、2017年度に東京大学経済学部の学部ゼミで取り上げ、要約を学生に作成してもらったので、内容について追いたい人は、それが参考になると思う。
高橋伸夫 (2002)「ペンローズ『会社成長の理論』を読む」『赤門マネジメント・レビュー』1(1), 105-124. PDF
高橋伸夫, 新宅純二郎 (2002)「Resource-Based Viewの形成 」『赤門マネジメント・レビュー』1(9), 687-704. PDF