Simon, H. A. (1947; 1957; 1976; 1997). Administrative behavior: A study of decision-making processes in administrative organization. New York, NY: Macmillan. 3rd and 4th eds. New York, NY: Free Press.
第2版の邦訳, H.A.サイモン(1965)『経営行動』(松田武彦, 高柳暁, 二村敏子 訳). ダイヤモンド社.
第3版の邦訳, ハーバート・A・サイモン(1989)『経営行動: 経営組織における意思決定プロセスの研究』(松田武彦, 高柳暁, 二村敏子 訳). ダイヤモンド社.
第4版の邦訳, ハーバート・A・サイモン(2009)『経営行動: 経営組織における意思決定過程の研究』(二村敏子, 桑田耕太郎, 高尾義明, 西脇暢子, 高柳美香 訳). ダイヤモンド社.

 『経営行動』(Administrative behavior)の著者 Herbert A. Simon は1916年6月15日生まれで2001年2月9日没、1978年には「経済組織内部での意思決定プロセスにおける先駆的な研究を称えて」ノーベル経済学賞を授賞されており、『経営行動』はその主要業績のひとつに挙げられる。『経営行動』には、1947年版(初版)、 1957年版(第2版)、ノーベル経済学賞受賞の2年前に出版された1976年版(第3版)、亡くなる4年前に出版された1997年版(第4版)の四つのバージョンがある。 初版(1947)、第2版(1957)、第3版(1976)、第4版(1997)の間の関係は、第4版(1997)で第3版(1976)を3部構成(tripartite organization)と呼んだ際のラベル(1997, p.viii)を使うと簡単に整理できる。詳しくは、 高橋伸夫「『経営行動』の各版の比較【草稿】」 を参照のこと。ところで『経営行動』の初版(1947)のいわゆる奥付には、すでに “COPYRIGHT, 1945, 1947, BY HERBERT A. SIMON” と明記されていた。「準備版」(preliminary edition)という表現自体は、初版の「まえがき」(Preface)の第二段落の冒頭にも登場するが、1945年版を指すことは明示されていない。その正体については、 Administrative Behavior 1945年版について を参照のこと。

 さて、サイモンといえば「限定された合理性」(bounded rationality)をすぐに想起させるほどに「限定された合理性」(経済学者は「限定合理性」などとも訳す)は重要な概念であるが、実は、『経営行動』の「元の本文」部分では「限定された合理性」という用語は一度も登場しない。登場するのは第3版の序文が初めてで、 【1976, p.xxxi, 邦訳, 序文p.32】と【1976, p.xxxiii, 邦訳, 序文p.34】の2箇所に登場するのみである。 にもかかわらず、第3版では、索引の“rationality”の項目(1976, p.363)の子項目として“bounded rationality”が挙げられ、初版・第2版とは全く同じはずの「元の本文」(第3版では第1部に相当)の中からも3箇所が挙げられているのである。もちろん、これらの部分には用語 “bounded rationality” は登場しないし、初版と第2版の索引の“rationality”の項目(1947, p.258, 1957, p.258)には子項目としての“bounded rationality”すら存在しなかった。そして、ご丁寧なことに、第4版の索引では、“bounded rationality”の該当箇所からこれらの部分は削除されてしまうのである。第4版でも、それぞれに該当している文章は全く同じで、 もちろん“bounded rationality”は登場しないので、削除されたのは当然といえば当然ではあるのだが。 要するに、『経営行動』では初版から最終の第4版に至るまで、「元の本文」部分では一度も“bounded rationality”が登場しないのである。この続きは、参考文献に挙げた高橋(2008)で。


《参考文献》

高橋伸夫 (2008)「『限定された合理性』はどこに―経営学輪講 Simon (1947, 1957, 1976, 1997)」『赤門マネジメント・レビュー』7(9), 687-706. ダウンロード


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