Urban, G. L., & von Hippel, E. (1988). Lead user analyses for the development of new industrial products. Management Science, 34(5), 569-582. ★★★ 【2016年4月20日】

 プリント回路基板(printed circuit boards)用のCADシステム「PC-CAD」について、IPC協会のリストと某大部品メーカーの顧客・潜在顧客リストから無作為に178社を選び、1985年に、それらの会社のPC-CADのユーザー、監督者、技術支援員に電話・メールでインタビューを行い、136人(76.4%)から回答を得た。1/3は技術者・設計者、1/3はCADやプリント回路基板の管理者、26%は一般の技術管理者、8%は本部管理者だった。驚くべきことに、23% (計算すると31社[*1])は自社のPC-CADのハード、ソフトを自社開発していた。

 この論文では、リード・ユーザーは、

  1. 市場で一般的なニーズに、大多数よりも数か月・数年前に直面しており、
  2. そのニーズに対するソリューションがあれば、便益を得る
とされている(p.569)。そこで、1と2に沿った変数を挙げて、136社をクラスター分析している(p.574: Table 1)。二つのクラスターに分けた場合には、クラスター(2.1)と(2.2)に分けられるが、クラスター(2.1)は98社中、自社開発をしているのが1% (計算すると1社)しかなかったのに対して、クラスター(2.2)では38社中87% (計算すると33社)が自社開発をしていた[*2]。三つのクラスターに分けた場合には、クラスター(3.1)の57社、(3.3)の46社では自社開発をしていたのは皆無(0%)、クラスター(3.2)の33社は全部の会社(100%)が自社開発を行っていた[*3]。

 さらに、178社からMIT近くの5社の専門家を呼んで、PC-CADシステムのコンセプトづくりをしてもらった。そのうち4社は自社開発をしていた。その5社を除いた173社を対象に第2回調査を行い、71社(41%)から回答を得た結果、そのコンセプトは現在使用しているシステム等と比べても非常に高い評価を得たという(p.576: Table 2)。しかも、その選好は、「リード・ユーザー」でも「非リード・ユーザー」でも似ていたという(p.577: Table 3, p.578: Table 4)。

 とはいえ、この論文を読むと、「リード・ユーザー」や「ユーザー・イノベーション」が一体何だったのかという疑問がわいてくる。たとえば、クラスター(2.2)を「リード・ユーザー」、クラスター(2.1)を「非リード・ユーザー」とラベル付けしているが、クラスター分析で出てきた「リード・ユーザー」は、実質的には自社開発組を指していたのである。このクラスター分析自体も、自社開発しているかどうかが説明変数の一つになっていたので、ある意味、それが決定的に効いており、「ユーザー・イノベーションをやっている会社がリード・ユーザーだ」と言っているのに等しい。それはそれで正しいのだとすると、リード・ユーザーの定義として1と2のような特性を展開した意味がない。しかも、プリント回路基板のメーカーが、工程イノベーションの一環としてPC-CADを自作することは当たり前といえば当たり前で、「ユーザー・イノベーションのない会社」とは「工程イノベーションのない会社」と同義といってもいい。少なくともこの論文に関して言えば、ユーザー・イノベーションとは、何のことはない、Abernathyたちの工程イノベーション(Abernathy & Utterback, 1978)の言い換えだったのだ。

 また、細かいことだが、自社開発していた会社数は[*1]では31社、[*2]では34社、[*3]では33社となり、どれが正しいのか分からない。分析自体にも疑問が残る。


《参考文献》

Abernathy, W. J., & Utterback, J. M. (1978). Patterns of industrial innovation. Technology Review, 80(7), 40-47. ★★★


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