von Hippel, E. (1986). Lead users: A source of novel product concepts. Management Science, 32 (7), 791-805. ★★☆ 【2012年6月20日】

 論文タイトル通り、リード・ユーザー(lead user)に関する論文である。変化が速い分野の全く新奇の製品について市場調査をすることは難しいが、著者は、製品やプロセスのリード・ユーザーを特定し、彼らを対象に調査すればいいと提案している(p.797では4つのステップとして提示されている)。新奇あるいは向上した製品、プロセス、サービスの「リード・ユーザー」とは、(1)現在、強いニーズに直面していて、そのニーズは、数カ月後あるいは数年後の未来には市場の大部分が直面するようになるニーズである。(2)そのニーズに対するソリューションから著しい利益を得るような立場にある。という二つの特徴を持ったユーザーであると定義される(p.791, p.796)。では、どうやってリード・ユーザーを特定するのか? (1’)まず重要な傾向(trend)を特定し、その最先端(leading edge)にいて、(2’)そのニーズに対するソリューションから比較的高い純便益(net benefit)を得ると期待されるユーザーを探せばいいとされている。

 そんなに簡単にリード・ユーザーを特定できるのか? そこで2年後、Urban and von Hippel (1988)では、クラスター分析を使ってユーザーのグループ分けをしてみせているが、これでは、(1')(2')とはアプローチが変わってしまっているのではないだろうか? また、Figure 1 (p.797)では、製品の商業化以前のユーザーの一部をリード・ユーザーとしているが、同時に、商業化以降もリード・ユーザーが増えているように描かれており、図の説明がまったくないために、昔からRogers (1962)の普及理論で言われてきたイノベーターとの違いが分からない。後になって、von Hippel, Thomke, and Sonnack (1999)では、リード・ユーザーは商業化以前のユーザーであると限定されている図(p.49)を示しているが、そうした図の方がまだ違いが分かりやすい。ただし、それでもおかしいのは、商業化以前のすべてのユーザーだと、(1)を満たしているだけだということである。この論文で定義したリード・ユーザーは、さらにその一部、(2)も満たしたユーザーのはずだったのだが?

 ちなみに、この論文のp.799では、純便益(net benefit) Bは、ユーザーが新しいソリューションを適用することで増える利益VR (正確にはVとRをかけたもの)から、それにかかるコストCとそれまでの純便益Dを引いて、B=VR-C-D とされている。著者がVR-CからさらにDを引いている気持ちは、前のソリューションと比較しての「増分」という意味での「純」便益なのであろう。しかし定義からして、VRは既に新しいソリューションにしたときの増分利益なので、そこからさらにDを引くのは二度引きになっていておかしい。仮に、VRが増分利益ではなく、ただの利益だとしても、それでもおかしい。なぜなら、ひとつ前のソリューションのものを ' で表すと、今度は、引くものは、前のソリューションの「純」便益B'ではなく、前のソリューションの「コストを差し引いた便益」V'R'-C'でなくてはならないからである。このことは新旧2世代の製品だと分かりにくいが、新旧3世代の製品で「コストを差し引いた便益」を棒グラフにして三つ並べるとすぐに分かる。あくまでも「コストを差し引いた便益」は世代が進むにつれて増加していくという前提のお話ではあるが、棒の長さの差(増分)が本来の純便益である。いずれにせよ、こうした問題点に気がつかないのは、著者自身が、ここで説く純便益の計算式を実際に使ったことがないからではないだろうか。


《参考文献》

Rogers, E. M. (1962). Diffusion of innovations. New York, NY: Free Press of Glencoe, London: Collier Macmillan.

Urban, G. L., & von Hippel, R. (1988). Lead user analyses for the development of new industrial products. Management Science, 34(5), 569-582.

von Hippel, Thomke, S., & Sonnack, M. (1999). Creating breakthroughs at 3M. Harvard Business Review, 77(5), 47-57.


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