Zollo, M., & Winter, S. G. (2002). Deliberate learning and the evolution of dynamic capabilities. Organization Science, 13(3), 339-351. ★★★ 【2015年6月16日】

 この論文は、組織が動的能力(DC; dynamic capability)を開発するメカニズムを説いている。まず組織活動を二つの集合 @組織で稼働中の既存ルーチン(OR; operating routines)と ADCに分け、DCはORをより効率的なものにする学習された安定的な活動のパターンと定義する(p.340)。その上で、DCは、三つの学習メカニズム

  1. 暗黙的な経験の蓄積(tacit experience accumulation)
  2. 明示的な知識の分節化(explicit knowledge articulation)
  3. 明示的なコード化(explicit codification)
の共進化で生まれるという命題(p.344)を掲げる。そして 1 (lower)<2 (higher)<3 (highest) の順で、より学習投資(learning investment)が必要になると主張する。

 他方、この三つの学習メカニズムに関して、三つの仮説を提示している(検証等は行っていない)。すなわち、(仮説1) 経験の頻度が低いほど、(仮説2) 課業経験の異質性が高いほど、(仮説3) 課業の行為と結果の因果関係があいまいなほど、DC開発で、暗黙的な学習メカニズム1より、明示的な学習メカニズム2、3が有効だと仮説を立てている。勝手に例を挙げれば、これまでほとんど日本人しかお客さんのいなかった店に頻繁に中国人が来店して爆買いすれば、店側でも中国語でやりとりすることを覚えるなど経験を自然と積んでいくだろうが、そもそも外国人はたまにしか来店せず、しかも実に多様な国からやってきて、記念品程度に買っていくような場合、多分、店側では色々な国の言葉で書いた想定問答集的な案内板等を用意して対応するだろう。

 ところで、p.343では、一般的な進化の図式 変異→淘汰→保持→ に複製を加える修正をして、変異→淘汰→複製→保持→ としているが(Figure 2)、変異は各主体のルーチンで起こることなのに対して、複製は「普及過程」だとも明記されているように、複数主体間で起こることなので、レベルが違うのではないだろうか。複製を淘汰と保持の間に入れている理由もわからない。この場合、変異を探索、複製を活用と対応させていることも加味すると

探索・複製による多様化→淘汰→保持→

とした方が自然だろう。


《参考文献》

【解説】持田弥, 岩尾俊兵 (2015)「ダイナミック・ケイパビリティと組織学習への投資―経営学輪講Zollo and Winter (2002)」『赤門マネジメント・レビュー』14(8), 433-450. ダウンロード


Readings BizSciNet

Copyright (C) 2015 Nobuo Takahashi. All rights reserved.