卒業論文を書く際に利用すべきサイト (高橋伸夫@東大経済)  BizSciNet



特定非営利活動法人グローバルビジネスリサーチセンター GBRC

 高橋伸夫ゼミでは、提出する論文は、GBRC発行の『赤門マネジメント・レビュー』と同じフォーマットにしてもらっています。GBRCのサイトに中に「オンライン・ジャーナル編集室」のコーナーがありますから、そこの「投稿規程」を参照してください。 「執筆マニュアル」と「テンプレート」もダウンロードできます。特にテンプレートはなかなか強力で、面倒くさがらずにこのテンプレートを使えば、ほとんどの雑文も(見かけだけは)論文風に見えてくるという優れものです。

 また、参考文献の書き方は、絶対にそれに従うこと。参考文献リストがきちんと書けていないようなものは、そもそもアカデミックな「論文」ではありません。GBRCの文献リストの表記スタイルは、経営系では最先端を行っていて、Publication Manual of the American Psychological Association (実物を欲しい人は、インターネット書店でも3,000円程度で売っています。翻訳もあります) に準拠したものになっています。こういったものが、本当の意味でのグローバル・スタンダードなのです。


CiNii (サイニィ)

 かつてはWebcatと呼んでいた、全国の大学図書館等が所蔵する図書・雑誌を、WWW上で検索できるシステムです。もともとの使用目的は、自分の大学の図書館に図書が入っているかどうかとか、あるいはどこの大学の図書館に入っているのかとかを確認するためのシステムのはずでしたが、Webcatの出現は、研究者にとっては一大革命をもたらしました。これがなかった時代には、論文の参考文献リストの書籍の部分を完成させるためだけに(書籍を読むために……ではない)、図書館に何日か通い詰めたことまでありました。CiNiiでは、書籍のいわゆる「奥付」を見ないとわからないような細かな書籍データまで調べられますので、これを使って、完全な参考文献リストを比較的短時間で作成できるようになりました。しかも、CiNiiのマニアックさは尋常ではありません(私は大好き)。たとえば「タイトル・ワード」に「近代株式会社と私有財産」と入力して、「図書」を検索してみてください。これは有名なバーリ=ミーンズの翻訳なのですが、2冊ヒットしたうちの1冊、北島忠男訳『近代株式会社と私有財産』文雅堂書店の方をクリックすると、書誌情報が出てきますが、その中の「注記」には、次のようなことが書いてあります。

  3版(昭和39年6月)以降出版者名変更: 文雅堂書店→文雅堂銀行研究社
  11版(11刷)昭和61年5月の奥付けの記述には初版は昭和32年9月とある。

1行目も驚きですが、2行目は、(本当は初版は昭和33年5月のはずなのに) 11刷は奥付が間違っている(!)ということを指摘しているのです。つまり、目の前に現物の本が存在して、その本の奥付を書き写したとしても、安心できないということなのです。こういうことが結構頻繁にあるので、参考文献リストを作る際には、まずはCiNii を見るべし。しかも、その中のWebcat Plusをクリックすると、なんと「日本の古本屋」等のインターネット書店にそのまま飛べるのがすごい。


東京大学で利用できる電子ジャーナル e-Journal (学内のみ)

 「東京大学で利用できる電子ジャーナル」別名「e-Journal」は、東京大学附属図書館・情報基盤センターが提供しているオンライン・ジャーナルのポータル・サイトです。東京大学附属図書館が提供するオンライン・ジャーナルの中には、経済学部が購入中のタイトルも数十タイトル含まれています。もともと有料のオンライン・ジャーナルをかき集めたものなので、東京大学内からしかアクセスできませんが、これも研究のスタイルに革命をもたらしました。何しろ広いキャンパス内に点在する図書館を駆けずり回って論文のコピーをかき集めていたのが(私の経験では、夏の暑い盛りに本郷キャンパスを端から端まで探し回って、1日にわずか論文3本しかコピーできなかったことがあります)、e-Journalの出現で、研究室にいながらオンラインで論文全文がpdfファイルでダウンロードできるようになったのです。いまやオンライン化されていないジャーナルなどはこの世に存在しないも同然です。

 この他にも、経済学部だけで利用できる電子ジャーナルもありますので、経済学部図書館の「論文検索」のコーナーも見てみてください。特にEBSCO hostのデータベースはなかなか便利です。しかもEBSCO hostには翻訳機能も付いているので、色々な言語で書かれた電子ジャーナルを機械翻訳レベルですが読むこともできます。

 ちなみに、グーグル・スカラー(Google Scholar)でも文献の検索ができて、非常に便利なのですが、検索で引っかかっても、オープン・アクセスのいわゆる無料ジャーナルしか読むことができません。ところが、東京大学の学内LANに接続してグーグル・スカラーを使うと、「東京大学で利用できる電子ジャーナル」については、ダウンロードできます。 近年、電子ジャーナルの契約料が高騰し、大学がどんどん契約を打ち切る事態になっています。いまや東京大学は日本の最後の砦といわれており、東京大学に在籍する教職員も学生も羨望の眼差しで見られているのです。東京大学に在籍していることの幸せをかみしめてみてください。


日本統計年鑑 Japan Statistical Yearbook

 統計を扱う人間にとって『日本統計年鑑』は本当の基礎資料です。これを知らない人は統計数字を扱う資格がない……というようなことを私も駆け出しの頃に言われました。現物は高価な上に重たいのですが、それがなんと、いまやネットで無料で利用できます。これを利用しない手はありません。

 『日本統計年鑑』は、日本の国土、人口、経済、社会、文化などの広範な分野にわたる基本的な統計データを、網羅的かつ体系的に収録したものです。データ・ソースは日本の官公庁や民間調査機関などが実施又は作成している統計調査、業務統計及び加工統計で、「日本国内で利用可能な最も信頼性が高いデータばかりを集めた統計集」といえます。そこらへんのシンクタンクやコンサルタント会社の調査データとはわけが違います。ゴチャゴチャ言ってないで、まずは『日本統計年鑑』を参照すべし。これだけの統計データが揃っている日本という国の底力を実感すべきです。

 『日本統計年鑑』の各章の冒頭には、統計の資料源、調査方法などについても解説しています。データを利用する場合には、この解説は必ず読むべし。この解説を理解するだけでも、普通の大学の「経済統計」の科目の試験にパスできるはずです。統計表には、英文もついていますので、海外に日本の紹介をする際にも利用できます。

 企業の調査をしてみたいと思っている人は、とりあえず「第7章 企業活動」くらいは一度のぞいておくべきでしょう。たとえば、利益率が普通はどの程度か? なんてことがすぐに分かります。


有価証券報告書

 有価証券報告書について知らない人は、経済学部の出身者とはいえません。私の書いた『経営の再生』第4章(p.145)の解説を引用すると、「証券取引所に上場されている株式会社は、事業年度ごとに、会社の目的、商号、出資・資本、営業・経理状況、役員、発行有価証券などを記載した「有価証券報告書」を当該事業年度経過後3ヶ月以内に内閣総理大臣に提出しなければならない」(金融商品取引法 24条)わけですから、個々の会社についての公開されている最も信頼できる情報の一つということができます。

 政府刊行物サービス・センターでは販売もしていますが、経済学部図書館に行けばすべて揃っています。ところが、それが2001年からは、金融庁の行政サービスの一環として証券取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム「EDINET (エディネット)」(Electronic Disclosure for Investors' NETwork)の運用が始まり、いまやネットで検索できるようになりました。ただし、残念なことに、提出された書類をインターネットにて閲覧可能とするものなので、まだすべての企業をカバーしきれていません。ここで見つからなかったものは、やはり経済学部図書館に行って閲覧するしかありません。とはいえ、学内からであれば、経済学部図書館のサイトのeolというデータベースで過去の有価証券報告書を閲覧できます。世の中本当に便利になったものです。

 ところで、有価証券報告書は、信頼性という点で、各企業が作っているホーム・ページの比ではありません。何しろ、有価証券報告書に嘘を書くと、犯罪行為になるわけですから……。実際、EDINETで閲覧してみると、各社がいかに神経質に有価証券報告書を訂正し、頻繁に訂正報告書を出しているのかが分かります。したがって、論文を書く際に引用すべきは、まずは有価証券報告書です。そこに書いていない情報についてはホーム・ページやパンフレット等を参考にするという程度になります。もし両者の記述が異なっていた場合には、その旨を脚注に書いて、有価証券報告書の記述の方を採用すべきです。


重要な本は、人に借りずに自分で買いなさい

 必要な文献は図書館等で借りてもいいのですが、本当に重要な文献は、飲み代を削ってでも自分で金を出して買っておくべきです。私は、今後、自分の本をみなさんに貸さないことに決めました。それがご本人のためにならないということがよくわかりましたので……。

 私のところに、貸してくれと言って来る人は、よく言い訳として「大きな本屋さんに行っても見つからなかった」と口にしますが、そんなものは口実になりません。専門書は最初から店頭に並んでいないと思わないと。私も専門書のほとんどはアマゾン、紀伊国屋書店BookWeb (ここの洋古書詳細検索のコーナーは洋書の古書の掘り出し物がゴロゴロ並んでいる)等で取り寄せて買っています。

 アマゾン等で、本当に扱っていないかどうかのチェックは、本についているISBNコード(数字)を直接入力して検索してみるとはっきりします。実は、インターネット書店は、書名や著者だけではなくISBNコードでも検索できるのです。ISBNコードがわからないという人は、サイニィもしくは国立国会図書館の検索システムを使うとわかります。日本語の文献の場合、国立国会図書館にも入っていないとすると、それはそもそも出版物としては取り扱われていないことになりますので、もはや「書籍」ではないという結論になります。



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