Berry, J. W. (1976). Human ecology and cognitive style. New York, NY: John Wiley.

Berry, J. W. (1971). Ecological and cultural factors in spatial perceptual development. Canadian Journal of Behavioral Science, 3(4), 324-336.
Berry, J. W., & Annis, R. C. (1974). Acculturative stress: The role of ecology, culture and differentiation. Journal of Cross-Cultural Psychology, 5(4), 382-406.


 二つ以上の異なる文化が接触することによって、双方、もしくは一方の文化が変容するという過程を文化変容(acculturationあるいは文化触変とも訳す)と呼ぶ。比較文化心理学で有名になるBerryは、1970年代、文化変容の概念を成熟させていった。マイノリティにおける生態と個人の発達に関する研究(Berry, 1971)、西洋化に直面しているマイノリティの心理ストレス(これを「文化変容ストレス(acculturative stress)」と呼んでいた)に関する研究(Berry & Annis, 1974)を経て、最初の著作(Berry, 1976)で、マイノリティ(特にアメリカン・インディアン)が西洋文化に接した際の、自文化と西洋文化とに対する心理的傾向を表す二つの質問を軸として表1のように文化変容を4つに類型化して整理した(Ohkawa, 2015)。これが後に、経営学分野で、合併・買収の際の文化変容を分析した研究(Buono, Bowditch, & Lewis, 1985; Nahavandi & Malekzadeh, 1988)などで「文化変容モデル」として引用されることになる。

表1. 文化変容の4類型
より大きな社会との
肯定的な関係が求
められるべきか?
伝統的な文化は価値が
あり保持されるべきか?
YesNo
Yes統合同化
No拒絶(分離)(失文化)
(出所) Berry (1976, p.181) Table 8.4。

 しかし、この表は、そもそもベリーが著書(Berry, 1976)にまとめる際に、文化変容ストレスを

  1. 20 項目の神経疾患チェックリスト
  2. 14 項目の周辺性尺度
  3. 24 項目の自分のグループや相手グループ(西洋文化)に対する心理的姿勢に関する質問
で測ることとし、さらに3の自文化と西洋文化に対する心理的姿勢に関する24の質問項目を、同化(assimilation) 9 項目、統合(integration) 9 項目、拒絶(rejection) 6 項目の三つの下位尺度に分類した際に、分類ラベルの整理のために考え出されたものだった。

 より具体的には、表1は横軸を「伝統的文化は価値があり保持されるべきか(Is traditional culture of value and to be retained?)」という質問、縦軸を「より大きな社会との前向きな関係は求められるべきか(Are positive relations with the larger society to be sought?)」という質問で構成し、それぞれを Yes/No で、すなわち「伝統的生活を捨てる/維持する」「西洋化を望む/望まない」で 2 分し、2×2 の四つのセルを作り、該当するセルに下位尺度のラベルを入れていったのだ。しかし、下位尺度はもともと 3 種類しかなく、表1の右下のセルが空欄になってしまう。そこで、「失文化(deculturation)」というラベルが括弧つきで挿入され、全てのセルが埋まった「文化変容の類型」が誕生した。つまり、この表1は、24 の質問項目の分類ラベルの整理のために考え出されたものであり、しかも最初は、分類ラベルは同化、統合、拒絶の三つしかなかったのである(Ohkawa, 2015)。

 しかし、表1は分類ラベルの整理としては、実に合理的にできている。さらに分かりやすく、「伝統的文化を捨てる」ことを同化志向、「西洋社会から自己隔離する」ことを分離志向と呼ぶことにすると、「同化」とは、伝統的文化を捨て、西洋社会の中で生きていくこと、それとは対照的に、「拒絶(分離)」とは、西洋社会を拒絶し、そこから自己隔離して伝統的文化を守ること、そして「統合」とは、西洋社会の中で暮らしながら、伝統的文化も守ることになる。

 ところが、「失文化(deculturation)」の類型については、ベリー自身も明確な解釈を与えてこなかった。そこで、分離志向のレベルも同化志向のレベルも高いということを素直に理解して、高橋, 大川, 八田, 稲水, 大神 (2009)は、「失文化」の状態の例として、次のような行動・姿を挙げている。

「私はカメレオンの女。ダサいって言われて、孔雀みたいにおしゃれになって。顔が地味って言われて、インコみたいに派手な化粧になって。子供っぽいって言われて、ヒョウ柄のブランド服で着飾って。女らしくないって言われて、馬の尻尾みたいに髪の毛を伸ばして。短い方が似合うって言われて、アメリカン・ショートヘアになって。肌焼いた方がイケてるよって言われて、カラスみたいに真っ黒になって。今もう美白ブームだよって言われて、厚化粧で隠したらシマウマみたいに白黒になって。もう少しぽっちゃりの方がいいよって言われて、子豚みたいに丸ーくなって。やっぱやせてる方が好きだなって言われて、ダイエットしたら身体だけやせて胸がつるっとしちゃったりして。で、私一体、本当は何になりたいんだろう。」(女性の声で、この台詞が流れた後で、男性の「探そう」の声で締めくくられる。) (JFN(TOKYO FM系)毎週日曜日14:00〜14:55『山下達郎のJACCS CARDサンデーソングブック』で2009年第一クール(1月〜3月)で放送されていたジャックスのCM)

 要するに、周りから影響されやすく、しかもすぐに離れるので「周囲の人」が固定せず、いつも自分が何なのか分からないというストレスを抱えることになる。いわば、終わりなき「自分探しの旅」である。実は、現実の企業の中にも、こうした「失文化」になりやすい状況に置かれている人々がいる。それは、他の会社からの出向者である。完全に転職したわけではなく、いずれは元の会社に戻るかもしれない出向という形で今の会社に勤めている場合、そもそも付き合うべき周囲の人が2グループ存在し、しかも、自分は出向者であるという自覚があればあるほど、どちらにも合わせようとするだろう。そこで、高橋他(2009)は、「他の会社からの出向者は、分離志向のレベルも同化志向のレベルも高くなる傾向がある。すなわち失文化の状態になりやすい」という仮説を立て、分離志向と同化志向の測定尺度を提案し、実際に仮説を検証している。


《参考文献》

大川洋史 (2009)「文化変容モデルの誕生: 経営学輪講 Berry (1976)」『赤門マネジメント・レビュー』8(7), 393-408.  ダウンロード

Ohkawa, H. (2015). Deculturation: A secret of birth. Annals of Business Administrative Science, 14(5), 247-260.  ダウンロード

高橋伸夫, 大川洋史, 八田真行, 稲水伸行, 大神正道 (2009)「技術進化とコミュニティの文化変容モデル」 『経済学論集』75(3), 63-78. ダウンロード


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