Birkinshaw, J., & Hood, N. (1998). Multinational subsidiary evolution: Capability and charter change in foreign-owned subsidiary companies. Academy of Management Review, 23(4), 773-795. ★★★ 【2012年6月27日】


多国籍企業(multinational corporation; MNCs)の海外子会社(subsidiary)の活動と能力(capability)がどのように変化していくのか(進化evolutionとも呼んでいる)について概念モデルを論じた論文。前半の文献レビューに続いて、後半では、能力の変化とチャーターの変化の相互作用で進化プロセスを五つに分類している。ここで、能力は通常の能力なのだが、チャーターとは何なのかが理解の鍵となる。ここでいうチャーター(charter)とは、辞書的に言えば、国王または国家が植民団・自治都市・組合などの創設や権利・許可・特権を保証する勅許(状)、設立認可状、特許状 [新英和大辞典第6版(研究社)]ということになる。この論文の中では、チャーターとは、多国籍企業の中で、子会社が責任を持っていると認知される事業(business)または事業の要素(p.782)とされている。Galunic and Eisenhardt (1996)に由来しているとされている。多くの多国籍企業の内部では、子会社間でチャーターの取り合い(競争)があるともされている(p.782)。

チャーターは、市場、製造する製品、もっている技術といったレベルで定義が可能だとされているが(p.782)、議論を簡単にするために、市場で考えて私なりに分かりやすく説明すると……。例えるなら、日本の戦国時代のように、力(能力)をつけた子会社は、自分の担当する国だけではなく、他の市場にも手を出して販路を拡大していく。そのことで、もともと一つの国しか管轄していなかった子会社が複数の国を管轄、統括するようになり、そのあおりで、力のない子会社はつぶされたり、吸収合併されてしまったりする。こうした状態の多国籍企業はヘタラーキー(heterarchy; 最上位の点のないネットワーク)とも呼ばれるが(Hedlund, 1986)、それに対して、江戸時代には、今度はハイアラーキー(hierarchy; 階層構造)で、徳川幕府を頂点とした幕藩体制の中で、幕府が大名を取りつぶし、別の大名に領国として与えたり、あるいは領国を安堵したり、ということが行われる。

実は、これと似たようなことが多国籍企業の中で起こると主張しているのが、この論文なのである。江戸時代のように、最初に親会社によりチャーターを得たり(gain)/失ったり(loss)することで、子会社の能力が向上(enhancement)/減耗(depletion)という変化が起こる場合は、PDI (parent-driven investment)/PDD (parent-driven divestment 剥奪、引揚)であり、親会社主導(parent-driven)と呼ばれる。それに対して、戦国時代のように、最初に子会社の能力が向上(enhancement)/減耗(depletion)が起こり、そのことでチャーターを得たり(gain)/失ったり(loss)と変化する場合は、SDE (subsidiary-driven charter extension)/ASN (atrophy 委縮through subsidiary neglect)であるが、なぜか統一して子会社主導(subsidiary-driven)とは呼ばれない。それは、いわゆる領国安堵の場合をSDR (subsidiary-driven charter reinforcement)と呼んでしまっているからだろう。親会社主導と子会社主導の2軸でFigure 2 (p.783)を描くと、図中で矢印が曲がっている意味がより明確になったのだろうが、ちょっと残念である。

さらに、びっくりするくらい残念なのは、SDE (subsidiary-driven charter extension)、SDR (subsidiary-driven charter reinforcement)が、Table2 (p.785)、Proposition 2 (p.788)のあたりから、SCE (subsidiary-driven charter extension)、SCR (subsidiary-driven charter reinforcement)に化けていること。これだけ大量にだと、何か変更理由があるのではないかと疑いたくなるが、どうも単なる誤植、間違いらしい。レビューも受けて、校正もして……信じがたい。


《参考文献》

Galunic, D. C., & Eisenhardt, K. M. (1996). The evolution of intracorporate domains: Divisional charter losses in high-technology, multidivisional corporations. Organization Science, 7(3), 255-282.

Hedlund, G. (1986). The hypermodern MNC: A heterarchy? Human Resource Management, 25(1), 9-35.


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