Cheng, B., Ioannou, I., & Serafeim, G. (2014). Corporate social responsibility and access to finance. Strategic Management Journal, 35(1), 1-23. https://doi.org/10.1002/smj.2131 ★☆☆ 【2022年7月20日】


 この論文は経営学の論文ではない。

 企業の社会的責任(corporate social responsibility; CSR)が話題になるようになって久しい。トムソン・ロイター(Thomson Reuters)のASSET4は、(1)環境パフォーマンス・スコア、(2)社会パフォーマンス・スコア、(3)企業統治スコア、(4)経済パフォーマンス・スコアの4本柱からなるが(p.6)、この論文ではASSET4の4本柱のうち(1)〜(3)の等加重平均値をCSR指数(CSR Index)と定義し(本来ならESG (environment social governance; 環境・社会・ガバナンス)指数と呼ぶべき)、それが経済学分野で資本制約を表す指数として使われているKZ指数(Kaplan and Zingales Index)に影響していると主張している。つまり、CSR指数が大きくなるほどKZ指数は小さくなる(資本制約が弱くなる)傾向があるというのだ。KZ指数は、総資産に対するキャッシュフロー、現金残高の比率が小さいほど(つまり内部資金が少ないほど)、大きな値をとるようになっていて、KZ指数が大きいほど資本制約が強いことになる(p.22)。

 とはいえ、これが昔の話ならまだしも、今や、ファンドを運用するブラックロック(BlackRock)がASSET4のデータを使うようになった(p.6)と書いてしまっているほどなのである。実際、ブラックロックに限らず、ESG重視を標榜するファンドが増えたのは事実だろう。ちなみに、日本でも投資信託でおなじみのブラックロックは、2021年末の運用資産残高10兆ドルの世界最大の資産運用会社で、ファンドを通じて主要な上場企業の大株主となっており、S&P500種株価指数を構成する企業の80%以上において、持ち株比率の上位3位までに入っているという。であれば、CSR指数が良かった会社は、ファンドから資金調達しやすかったはずである。しかし、それが会社の経営のパフォーマンスを説明していることにはならない。経営学的にはナンセンスである。

 実際には、

  1. CSRと企業財務パフォーマンスの関連を調べた実証研究では、結果がバラバラで、正の関係も負の関係もあれば、U字型・逆U字型どちらの関係もある(p.3)。
  2. 企業規模が大きい会社ほど、CSRスコアが大きく、資本制約も小さいという関係がある(p.9)。
という事実から導き出されるまともな結論は、(A)「CSRと企業財務パフォーマンスの間には直接の関係はなく、仮に相関関係が見られたとすれば、それは企業規模を先行変数とする疑似相関である可能性が高い」ということだ。にもかかわらず、この論文は、近年、ESG重視を標榜するファンドが増えたことを背景に、(B)「ESGスコアの良い会社は資金調達が楽だった」という傾向を確認しただけで、(A)の可能性を無視し、(B)から飛躍して、CSRが財務パフォーマンスに良い影響を与えると主張したわけだ。

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