Deshpande, R., Farley, J. U., & Webster Jr, F. E. (1993). Corporate culture, customer orientation, and innovativeness in Japanese firms: A quadrad analysis. Journal of Marketing, 57(1), 23-37. ★★☆

 日本企業の企業文化・顧客志向・革新性と業績との関係を調べた論文。セールス・ポイントは、売り手企業(vendor firm) 1社につき、当該企業のマーケティング経営者(marketing executive) 2名と買い手側の顧客企業(customer firm)の購買経営者(purchasing executive) 2名、合わせて4人をquadradと呼んで、東証(論文p.28には Nikkei stock exchange in Tokyo とあるが、そんなものはないので、東京証券取引所の間違いだろう)上場企業の計50のquadradsのインタビュー・データをもとに分析していること。ただし、インタビューは下記のような質問を日本語で行ったもので、quadradを強調している割には、顧客企業にも聞いているのは、2.顧客志向だけなので注意がいる。

    【説明変数】
  1. 企業文化(corporate culture)として、(A) clan (一族的文化)、(B) adhocracy (起業家的文化)、(C) hierarchy (官僚組織的文化)、(D) market (市場競争的文化)の4タイプを考え、(1)組織の種類、(2)リーダーシップ、(3)組織をくっつけているもの、(4)大事なもの、のそれぞれについて、自社の文化がABCDのどれに似ているか、100点をABCDの4つに分配して答えてもらい、ABCDそれぞれの合計点。
  2. 顧客志向(customer orientation)として、9問を5点尺度で答えてもらい、その合計点。
  3. 革新性(innovativeness)として、5問を5点尺度で答えてもらい、その合計点。

  4. 【被説明変数】
  5. 業績(performance)として、収益性、規模、市場シェア、成長速度の4項目を3点尺度で答えてもらい、その合計点。

 分析の結果、Table 1 (p.30)によれば、

  1. 高業績企業の方が (D) marketの点数が高く、(C) hierarchyの点数が低い。
  2. 顧客志向は、売り手企業自身の評価は低業績も高業績も変わらず、顧客企業の評価では、高業績企業の方が高顧客志向だった。
  3. 革新性も高業績企業の方が高かった。

 Table 2 (p.30)は高業績群と低業績群の2群の判別関数(discriminant function)を使って、a、b、cを統計的に検定しているらしく、いずれも5%水準で有意だったとしているが、通常の判別分析とは違うので、何をしているのかはよく分からない。また、Figure 1 (p.25)を見ると、機械的/有機的と内向き/外向きの2次元で測定して、ABCDの4つの象限に50社を位置づけるのではないかと予想してしまうが、そんなことは全くしないので、見ると誤解を招くだけ。さらに、いつ調査したのか書いていないが、1990年前後は日本はバブル景気で、世界中で日本と日本企業の存在感が著しく高かった時期だが(だから、この論文の調査も企画されたのだろうが)、1992年頃までにはバブルがはじけ、調子が悪くなり、すっかり自信を失って、失われた10年とか20年とかを過ごすようになる。この変化が急激な時期に、仮に数年かけて調査していたとすると、バブルがはじける前後で雰囲気がガラッと変わっているので、こうした分析をすること自体が無意味になる。調査時期が書かれていないので、なおさら怪しい。この論文の手法ではなく、結果を引用するのは止めた方がいい。


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