Dyer, J. H. (1997). Effective interfirm collaboration: How firms minimize transaction costs and maximize transaction value. Strategic Management Journal, 18(7), 535-556. ★☆☆ 【2011年12月14日】

 部品の調達(procurement)にかかわる従業員数を部品調達額で割ったものを「取引コスト」と定義して、日米の自動車メーカー5社、日本のトヨタ(標本サプライヤー50社中回答したのは38社)と日産(同36社)、米国のGM(同24社)、フォード(同31社)、クライスラー(同23社)を比較した研究。実際には、逆数つまり調達要員一人当たりの部品調達額を「取引コスト」の指標としている。1991年のデータでは、GM1.6、フォード5.3、クライスラー5.7に対して日産9.6、トヨタ12.6(単位は百万ドル)で、日本の2社の「取引コスト」が低いのに対して、資産の特殊性(工場間の距離、サプライヤー側で他のメーカーに転用不能な設備投資のパーセント、1年間にメーカーとサプライヤーの担当者が直接コンタクトに使っている人時)は日本の2社が高く(Table 2)、このことから、資産特殊性が高いことが、取引コストが高いことにはつながらないと結論している。そして、そうなる理由を5つの命題として挙げている。もっとも、命題1と命題2に登場する取引単位当たりの取引コスト(transaction cost per unit of exchange)なるものの意味がよく分からない。単純に「取引コスト」を取引量で割ったものであるならば、命題2「取引量が大きいほど、単位当たりの取引コストは低くなる」はトートロジー(定義そのもの)になってしまうし……。

 しかし、さらに問題なのは、「取引コスト」の定義そのものだろう。なぜメーカー側の調達要員数を部品調達額で割るのだろうか? この定義だと、コストダウンに成功して部品の納入単価が下がると「取引コスト」は上昇することになる。著者のイメージしている取引コスト概念がつかめない。そもそも取引コストをどうやって測るべきなのかが一番のリサーチ・クエスチョンであるべきではないか? そのためのステップとして、とりあえず、部品調達額で割らずに、メーカー側の調達要員数そのものを取引コストの代理変数と考えて、まずは、その調達要員数が、単純にサプライヤー数(Table 4によれば、日本の2社のサプライヤーの数は平均303社、米国3社の平均は2033社)や総取引部品点数(Table 4からすると計算できそう)に比例するようなものなのかどうかを調べ(ざっと計算した感じでは、明らかに比例しない)……といった分析プロセスを経て、調達要員数がどのような要因・理由で決まっているのかをある程度明らかにした上で、取引コストの測定可能な定義を提案すべきだろう。そうでなければ、この論文のような議論は無意味だと思われる。


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