Muller, J. Z. (2018). The tyranny of metrics. Princeton, NJ: Princeton University Press. ★★★

 実績基準、透明性、金銭的報酬という信念がもたらす意図せぬ好ましくない結果について語っている。たとえば、測定され、報酬が与えられるものばかりに注目が集まって、他の重要な活動はないがしろにされるのはどこでも見かける光景である。米国の社会心理学者Donald T. Campbellと英国の経済学者C. A. E. Goodhartは、1975年に独立別個に「測定され、報酬が与えられるものはすべて悪用される(will be gamed; 翻訳p.20では「改竄される」)」という法則を発表していた。にもかかわらず、こうした信念が持続している状態を本書では「測定執着」(metric fixation)と呼んでいる。

 そもそも著者が評する通り、これは破綻したソビエト的システムの本質的欠陥の複製にすぎない。本書では、機能しないという証拠が、ビジネス分野だけではなく、大学、学校、医療、警察、軍とこれでもかと積み上げられていく。にもかかわらず、自分の判断に自信を持てない権力者や自分の足跡を残したい新任の経営者、特に外部登用のジョブ・ホッパーは、経験に基づく深い知識を持たないがために、標準化された測定に頼り、それで成果を誇示する傾向があると指摘する。そして、説明責任が、標準化された測定を通じて成功を見せつけることに変わっていった。

 著者は資本主義や公共政策の歴史家で、大学で学科長を務めた経験から、このテーマに関心をもったそうだ。そのせいもあって、大学や教育の話には力がこもっている。大学は日米似たようなものかと思いつつ、米国では、実績基準、透明性、金銭的報酬は教育には効果がないということを繰り返し実証してきたという指摘にハッとさせられた。それでも測定執着は止められない。この本は、大学・教育関係者にも読んでほしい。と同時に、私が『虚妄の成果主義』を出した頃(2004年)に、成果給(pay for (measured) performance; 翻訳ではなぜか能力給と訳されている)を真っ向から否定するこうした援軍が海外から届いていたら、もっと戦いやすかっただろうに、とも思った。


《参考文献》

翻訳: 松本裕訳『測りすぎ: なぜパフォーマンス評価は失敗するのか?』みすず書房, 2019.

書評: 高橋伸夫「測りすぎ 成果誇示する説明責任」『北國新聞』 2019年6月29日他多数(共同通信から配信).


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