Ouchi, W. G. (1981). Theory Z: How American business can meet the Japanese challenge. Reading, MA: Addison-Wesley.
邦訳, ウィリアム・G. オオウチ (1981)『セオリーZ: 日本に学び、日本を超える』(徳山二郎 監訳). CBS・ソニー出版.


Johnson, R. T., & Ouchi, W. G. (1974). Made in America (under Japanese management). Harvard Business Review, 52(5), 61-69.

Ouchi, W. G., & Johnson, J. B. (1978). Types of organizational control and their relationship to emotional well being. Administrative Science Quarterly, 23(2), 293-317.

Pascale, R. T. (1978a). Communication and decision making across cultures: Japanese and American comparisons. Administrative Science Quarterly, 23(1), 91-110.

Pascale, R. T. (1978b). Personnel practices and employee attitudes: A study of Japanese- and American-managed firms in the United States. Human Relations, 31(7), 597-615.

Pascale, R. T., & Athos, A. G. (1981). The art of Japanese management. New York, NY: Simon & Schuster.
邦訳, リチャード・T・パスカル, アンソニー・G・エイソス (1981)『ジャパニーズ・マネジメント: 日本的経営に学ぶ』(深田祐介 訳). 講談社.


 1970年代以降、日本企業の海外直接投資が本格化し始めたなかで、例えば、米国の日系企業と純粋な米国企業との比較研究が行われていた。パスカル(Richard Tanner Pascale; 1938-)とオオウチ(William G. Ouchi; 1943-)は、1973〜1974年に20社以上の日本と米国の企業を訪問調査した。その成果は1974年の共著論文 (Johnson & Ouchi, 1974)に著わされるが、その後、パスカルはさらに詳細なデータ収集に進み、一方、オオウチは「セオリーZ」的な米国企業の調査に進む。

 1980年代に入ると米国企業の生産性の伸びの低下を嘆く論調が強くなってきた。そんな米国企業に取って代わって躍進してきた日本企業を目の当たりにして、米国で「企業文化」「組織文化」がブームになったわけだが、その裏側には、組織文化の形を借りて、日本的経営の長所を見習って、それを取り入れようという動きがあった。その代表的存在が、オオウチのベスト・セラー『セオリーZ』(Theory Z) (Ouchi, 1981)であった。直接的に日本的経営を移植するのではなく、文化はその企業の基本的な価値と信念をその従業員に伝達する一連のシンボル、儀式、神話からなっているとし(Ouchi, 1981, ch.2 邦訳p.68)、日本企業とよく似た文化の米国企業に見習って文化を変えることを提言していた。

 そこではまず、日本企業の組織の理念型としてタイプJ、米国企業の組織の理念型としてタイプAを考える。タイプJの終身雇用、遅い人事考課と昇進、非専門的なキャリア・パス、非明示的な管理機構、集団による意思決定、集団責任、人に対する全面的な関わりという特徴とは対照的なものとして、タイプAの短期雇用、早い人事考課と昇進、専門化されたキャリア・パス、明示的な管理機構、個人による意思決定、個人責任、人に対する部分的関りを挙げている。

 例えば、米国では経営幹部ですら離職率が高い。管理職は3年間も重要な昇進がないと失敗したという気持ちになり、早期に昇進しないと企業をすぐに変えてしまうというヒステリックな症状を示す。その結果、短期雇用となり、早い人事考課と昇進が必要になると指摘する。1960年には4,000人ほどしかいなかったMBA新規取得者が1980年には45,000人にもなったことも火に油を注ぐ結果となっているというのである。1960年代の合併・買収ブーム以降、1970年代にかけて、米国企業で未来係数が急速に低下していく様子と、その一因としてのMBAの急速な進出が挙げられていて興味深い。

 ところが、オオウチは米国企業の中にもタイプJと類似した特徴をもっている企業があることに気がつく。IBM、ヒューレット・パッカード、インテルなどの企業である。これらの企業は日本の真似をしたわけではなく、米国で独自の発展をしてきた企業なのである。そこでオオウチはこれをタイプZと呼び、このタイプZによる経営が米国においても可能であり、このことで生産性が左右されることを主張したのである。この『セオリーZ』の原型は、オオウチが1978年にジョンソン(Jerry B. Johnson)との共著で発表した論文 (Ouchi & Johnson, 1978)に遡ることができる。そこでは米国企業の組織の理念型としてタイプA、日本企業の組織の理念型の米国版としてタイプZを考えているのみで、タイプJは登場していない。表1に示すように、そこで挙げられているタイプZの特徴のうち、個人責任を集団責任に置き換えたものが『セオリーZ』ではタイプJとされているので、明言はされていないが、正確にはタイプZはタイプJとタイプAの中間型と位置付けられることになる。)

表1. オオウチの『セオリーZ』
        タイプJタイプZタイプA
雇用      終身雇用終身雇用短期雇用
人事考課と昇進 遅い遅い早い
キャリア・パス 非専門的非専門的専門的
管理機構    非明示的非明示的明示的
意思決定    集団による集団による個人による
責任      集団責任個人責任個人責任
人に対する関わり全面的全面的部分的
(出所) 高橋(2016) p.23.

 これに対して、オオウチと共同研究していたパスカルも、エイソス(Anthony G. Athos)との共著『ジャパニーズ・マネジメント』(The art of Japanese management) (Pascale & Athos, 1981)を同じ年に発表する。その基になったパスカルによる米国の日系企業の研究によれば、ボトム・アップ・コミュニケーション、公式文書、協議による意思決定という点で、日本企業の特徴が指摘される(Pascale, 1978a)。さらに業種、組合組織化の程度、事業所の設立年、技術要因などをコントロールして、米国の現地企業と日系企業の各11社について、従業員に対するアンケート調査、管理者へのインタビュー調査、文書調査を行った。その結果、日系企業は従業員の交流、レクリエーションに米国企業の2倍以上の額を支出しているし、第一線管理者1人当りの作業員数は米国企業29.1人に対して日系企業14.8人、20分間に同僚と話す頻度も米国企業44%に対して日系企業66%、といったようにコミュニケーション面では違いが見出された。しかし、仕事の満足度については両者に差は見られず、また日系企業の方が欠勤、遅刻、離職が多いというように、必ずしも、日系企業のパフォーマンスが良かったわけではない(Pascale, 1978b)。

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