高橋伸夫 (1992)『経営統計入門: SASによる組織分析』東京大学出版会.

Takahashi, N. (1992). Introduction to management statistics: SAS user's guide for organization analysis. Tokyo, Japan: University of Tokyo Press (in Japanese).


出版社版】1992年11月20日発行
著者版(全文HTML)】2018年1月15日公開
著者版(全文PDF)】2018年1月25日公開(東京大学学術機関リポジトリ)

 本書の特長は、なんといっても、各章をほぼ独立して読むことができるという点にある。どの章からでも読み始められると言い換えてもいいが、必要な章だけをつまみ食い的に読んでも、十分に理解できる。それは、もともと本書の成り立ちが、各章、独立して書かれていた手引書で、それぞれを大学で補助教材として使っていたからでもある。その特長を十分に生かせるように、著者版(全文HTML)では、文章中の各所で、本書内で説明の書いてある箇所にリンクを張ることで、(一つの章だけ抜き出して)つまみ食いをしやすいように工夫している。ということで、以下では各章の内容について、メニュー的に紹介しておこう。好きな章を選んで読んでみてほしい。(もちろん、著者としては、本書全体を読んでほしいとは願っているが。) 本書は、東京大学教養学部の統計学教室で助教授をしていた頃に、文科の学生向けテキストとしてまとめた本。

第1章 統計調査データと誤差
 調査設計について書いている統計学の教科書は本当に少ないが、本書では、第1章「統計調査と誤差」で、誤差の観点から、統計学のスタンスを簡潔に紹介している。結論だけ言えば、「調査にともなう誤差を考え、標本誤差(絶対誤差)と非標本誤差をともに5%以内に抑えるということをめざすのであれば、標本の大きさとしては500程度確保し(したがって、数百程度の大きさの母集団でほとんど全数調査が必要になる)、回収率80%以上をめざして、きめの細かい管理をすることを考えるべきである」ということになるが、どうしてそういう結論に到達するのかは、この第1章を読んでほしい。ビッグ・データの時代になっても、忘れてはいけない統計学の基本である。

第2章 SAS入門: 単純集計
 SASは、かつては法人契約しかなくて、大学のような機関に所属していないと使用できなかった(しかも高かった)。しかし、いまやSAS University Edition無償で(タダで!)使えるようになっている。これは大学生や大学院生にとっては朗報なのだが、意外と知られていない。SASのガイドブック、教科書自体も最近は低調でほとんどみかけない。本書では、第2章「SAS入門」で、そのSASの使い方を詳細に解説している。それだけではなく、他の各章でも、各統計手法をSASでどのように使うのか、SASの出力結果をどう読み、解釈するのかを丁寧に解説している。SASを使えば、わずか数行のコマンドで、高度な統計手法が使える。

第3章 データの記述と平均
 統計処理の基本は、データをいかにしてわかりやすい図・表にまとめるかである(と言い切ってしまっていい)。全数調査が可能な時代には(第1章でも説明しているが、全数調査では確率を使った数理統計学は不要になる)、なおさら重要になる。それはノウハウの世界なので、とにかく場数をこなすしかないのだが、そのノウハウの一端と正しい入り口を紹介しているのが、第3章「データの記述と平均」である。

第4章 相関と回帰
 相関分析も回帰分析も統計学の教科書では必須事項だが、意外なことに両者の密接な関係を説明した教科書は少ない。両者の関係をきちんと理解しておけば、「おかしい」分析結果や解釈にはすぐに気がつくし、論文の書き手としても間違いを予防することができる。本書の第4章「相関と回帰」は、その観点から、両者の密接な関係を含めて、相関と回帰を解説している。

第5章 クロス表
 経営学(や社会学)の分野では頻出の統計手法といっていいクロス表は、普通の統計学の教科書では数ページでも記述があるかどうかくらいに扱いが小さい。それは多くの数理統計学者が知る由もない実践の世界だからだという理由もある。そこで本書では、第5章「クロス表」で丸ごと1章を使って、詳細に実践的に解説している。クロス表を上手に使いこなせるかどうかで、調査結果の説得力は決定的に違ってくる。特に、調査をして、その結果を調査協力者にフィードバックしなくてはならないような研究者(の卵)には、必読の章。まずは、この章を読むべし・・・なのかもしれない。統計的検定の話もクロス表を例にすると理解がしやすい。

第6章 調査の手順と実際: 「組織活性化のための従業員意識調査」マニュアル
 経営学(や社会学)の分野では、統計調査はどのように行われるのか、そのことを調査の実例も使って解説しているのが第6章「調査の手順と実際」である。ここで取り上げている調査は10年以上にわたって、毎年改良を加えながら行われてきたもので、実際に調査で用いられた各種の調査票やマニュアルも資料として添付しているので、これに多少手を加えるだけで、本格的な調査をすることができる。まさに実践的なガイドブックである。

付章 CMS入門
 いまや大学でも、メインフレームのコンピュータに触れる人は、ごく一握りになってしまった。かつてIBMのメインフレームのコンピュータが世界を席巻していたが、それ用のOSであるCMSについて解説している付章「CMS入門」も、今回、HTML化して掲載している。これは、最近、コンピュータが便利になり過ぎて、日常的に無意識に使っているために、逆にOSやコンピュータについての基本的理解に欠けている人(研究者も含めて)が増えていると実感するからである。OSとは一体何なのか、この付章を読めば、その基本が理解できると思う。1970年代、大学で体系的なコンピュータ教育が始まり、その恩恵を享受した最初の頃の世代の一人として、そのことを要領よく伝えるのは義務と考えて書いた章でもある。「OS入門」として読んでもらえば、今日的価値は十分にあるし、このような基本に立ち返った解説書は、いまやほとんど存在しない。(まぁ、統計学ではありませんが。)


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