高橋伸夫(2010)『組織力: 宿す、紡ぐ、磨く、繋ぐ』筑摩書房. 【電子書籍版】

付章 組織化の社会心理学

 この本の「第2章 組織力を紡ぐ ― 仕事を共にする ― 」は、ワイク(Karl E. Weick)の『組織化の社会心理学 第2版』 を手がかりにしながら、組織化をキーワードに組織を捉え直してみたものである。ワイクの『組織化の社会心理学 第2版』はいまや古典とも言うべき有名な文献ではあるが、難解さの点でも群を抜いている。1969年に初版が出版され、1979年に第2版が出版されたのだが、第2版では、初版の記述は一部そのまま残ってはいるものの、ほとんどの内容が書き換えられ、本文(参考文献referencesを除く)も初版:21cm×14cm×109ページから、第2版:23.5cm×16cm×264ページへと、単純に考えても3倍近くの分量に大幅に増加している。

 たとえば、第2版の第1章の冒頭には、初版にはなかった10個のエピソードが書き加えられている。それぞれに面白いエピソードだとは思いつつも、一体、組織論的にどんな含意があるのかと考え始めると、まるで禅問答のように迷路に迷い込む。実は、ワイクのアイデアを理解すると、これら10個のエピソードの解釈の仕方が全く変わってしまうという仕掛けがあるのだが、しかし裏を返せば、最初にそのエピソードを読むときには、何も分からぬままに読まざるをえないということでもあり、ほとんどの読者は、そうした知的興奮を覚えることもなく、途中で読むことをあきらめてしまう。 そこで、この付章では、『組織化の社会心理学 第2版』の章ごとの解説をしてみた。読者の中には、この付章から先に読もうとする人もいるかもしれないが、それは、かえって回り道になるだろう。サラサラと読めてしまうこの本の「第2章 組織力を紡ぐ ― 仕事を共にする ― 」を最初に読んでから、それを手がかりにこの付章を読む方が、はるかに理解が容易になると考える。

 ただし、この本の主張は、第2章だけに限定しても、ワイクの主張と全面的に合致しているわけではないので注意がいる。ワイクは『組織化の社会心理学 第2版』の前半部分、第1章〜第4章では組織化がどのようなプロセスであるのかを説明し、後半部分、第5章〜第8章で組織化のメカニズムを提示している。一般的によく引用・紹介されるのは、進化論をメタファーとして用いた後半部分である。おそらく前半部分が難解で理解できないために、後半部分の方が引用しやすいのだろう。

 しかし、後半部分は、組織化の理論的な説明として成功しているとはいいがたい。ワイク自身がその第2章で述べているように、組織を軍隊にたとえるメタファーと同様の別のメタファーとして進化論でたとえているに過ぎないといってもいいだろう。その後半部分に代わるものとして、この本では、「第3章 組織力を磨く ― 経営的スケール観 ― 」の議論が用意されている。進化論よりは、認知心理学のアフォーダンス理論を用いた方が、前半部分との親和性も高くなると思われる。

 ということで、これ以降は詳細な解説が続くが、この付章は、高橋伸夫(2009)「組織化とは何か?―経営学輪講 Weick (1979)」『赤門マネジメント・レビュー』Vol.8, No.5, pp.233-262 を元に加筆修正したものなので、続きはそちらでも読むことができる。もともとは『GBRCニューズレター』で「組織論の文献解題シリーズ」(10)〜(19)として2005年10月24日号〜2006年8月7日号に連載した内容をもとにして加筆、修正したもの。


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