Administrative Behavior 1945年版について☆  BizSciNet


 『経営行動』(Administrative Behavior)の著者Herbert A. Simonは1916年6月15日生まれで2001年2月9日没、1978年には「経済組織内部での意思決定プロセスにおける先駆的な研究を称えて」ノーベル経済学賞を授賞されており、『経営行動』はその主要業績のひとつに挙げられる。『経営行動』には、1947年版(初版)、 1957年版(第2版)、ノーベル経済学賞受賞の2年前に出版された1976年版(第3版)、亡くなる4年前に出版された1997年版(第4版)の四つのバージョンがある。
 ところが、『経営行動』の初版 (1947) のいわゆる奥付には、すでに “COPYRIGHT, 1945, 1947, BY HERBERT A. SIMON” と明記されていた。「準備版」(preliminary edition)という表現自体は、初版の「まえがき」(Preface)の第二段落の冒頭にも登場するが、1945年版を指すことは明示されていない。しかし、手元にある初版9刷 (1955) のブックカバーのback flapの最後には “(NOTE: A preliminary edition of this book was issued in 1945 by the author for limited distribution.)” という記述があり、Simonが1945年版を「準備版」(preliminary edition)と呼んでいたことが分かる。
 Simonの自伝 Models of My Life (Simon, 1991, ch. 6) によれば、『経営行動』はシカゴ大学に提出した政治学の博士論文が元になっており、1942年5月に口頭試問が行われた。当時(1939年夏から)、Simonはバークレーに滞在しており、郵送で博士予備試験に合格し、バークレーの政治学科の指導のもとにバークレーで博士論文を書いてよいことになっていた。そしてイリノイ工科大学で教えていた1945年頃に、学位論文を改訂し、コメントをもらうためにあちこちに配って、出版社を探していたのである。すなわち、1945年版はマクミラン社から出版されたものではなく、1945年にSimonが、Assistant Professorをしていたイリノイ工科大学から、“Preliminary Edition”(準備版)として配布していたものだったのである。
 残念ながら、準備版は米国国会図書館でも紛失扱いになっており、これまで研究対象とされたことはなかった。しかし、2006年に、清水剛(東京大学)氏が米国エール大学の図書館で準備版を発見したのである。それは、清水氏が撮影した写真でも分かるように、タイプされた原稿をファイルしただけの、まさに草稿であり、「準備版」と呼ぶこと自体が、正しい表現なのかどうかも疑問であるが、ここに1945年版の目次を掲載するとともに、清水氏の大いなる「発見」を称えるものである。

   【清水剛氏撮影】

 ところで、大多数の学術書の著者(私も含めて)は、完成度の低い準備版などは存在すら表に出さないものである。そんな完成度の低いものを根拠にして、学術的に低い評価をされてしまったのでは、一研究者としては、たまったものではないからである。通常であれば、きちんと文章表現まで完成させて、きちんと印刷製本されて、出版社から正式に出版された1947年版を最初に掲げるものだ。実際、1957年版を出版したときには「第2版」と明記しており、であれば初版は1947年版だと言っているも同然である。それでは、文章・構成も含めて、内容を大改訂しているのに、なぜSimonは準備版の1945年を奥付のクレジットに入れておきたかったのであろうか? その答えは、拙稿を参照されたい:

高橋伸夫「『限定された合理性』はどこに―経営学輪講 Simon (1947, 1957, 1976, 1997)」『赤門マネジメント・レビュー』Vol.7, No.9, 2008年9月 pp.687-706. PDF

高橋伸夫「『経営行動』の各版の比較【草稿】」2011年10月10日. PDF


Table of Contents

    Preface
001  I. Introduction -- The Administrative Process
020  II. The Correctness of Decisions
026  III. The Logic of Administrative Decisions
055  IV. The Psychology of Administrative Decisions
086  V. The Concept of Authority
116  VI. The Criterion of Efficiency
155  VII. Institutional Identifications and Decision-Making
176  VIII. Influencing Decisions
200  IX. Organizing the Skills of Decision
237  Appendix A. What is an Administrative science?
244  Appendix B. Mathematical Formulation of the Theory of Efficiency




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