Thompson, J. D. (1967). Organizations in action: Social science bases of administrative theory. New York, NY: McGraw-Hill. ★★★
邦訳, J.D.トンプソン(2012)『行為する組織: 組織と管理の理論についての社会科学的基盤』(大月博司, 廣田俊郎 訳). 同文館出版.

 著者James D. Thompson は1920年1月11日生まれ、1973年9月1日没の社会学者で、1956年創刊の学術誌 Administrative Science Quarterly の初代編集長でもあった。この本が出版されたのは47歳の時だが、がんにより53歳で亡くなっている。この本は、長らく絶版になっていたが、 2003年になって、Mayer N. Zaldの新しいまえがき (a new preface) とW. Richard Scottの新しい序文 (a new introduction) を加えて、リプリント版がTransaction Publishersから出版された。翻訳も、2012年には、Transaction Publishers版の新訳『行為する組織』が出版されている。

 ところで、Thompson (1967) は、有名な古典ではあるものの、従来、テクニカル・コアのようなトンプソン独自の概念パーツには関心が集まったが、トンプソンが出版後6年で早世したこともあり、本全体としてトンプソンが何を主張しようとしていたのかについては、あまり関心が払われてこなかったように思える。実際、新訳の邦題が『行為する組織』になっていること自体が象徴的で、書名 Organizations in action は素直に『行為の中の組織』と訳すべきであろう。なぜなら、第1章で記述されているように、ランダムではない、計画的で筋の通った合理的な行為の中に、われわれは組織を見出すのだというのが、トンプソンの組織観だからである。しかしこれまでは、テクニカル・コアのような概念のインパクトに引きずられて、こうしたトンプソンの組織観のようなものに関しては、ほとんど理解が進んでこなかった。

 それは、この本の書き方にも問題があった。たとえば、この本は二部構成になっているが、第I部 (part one)、第II部 (part two) にはタイトルすらつけられていない。ところが、第I部、第II部のそれぞれが何について書かれているのか? どんなタイトルをつけたらいいのか? そのことに着目しながら本書を通読してみると、従来とはまったく異なるトンプソン像が見えてくるのである。第I部については、第5章のタイトル“Technology and Structure”が、第I部全体を読み解く重要な手掛かりを与えている。このタイトルだけでも、ピンとくる人はすぐにピンとくるはずだが、実は、あの有名なチャンドラーの Strategy and structure (Chandler, 1962) をモチーフにしているのである。第I部は、その理論編的なものを意図して書かれている。第4章で、組織成長には指向性があることを説いて「組織デザイン」の話をし、第5章で、技術的要件が「組織構造」(structure) に与える影響について論じ、第6章ではコア・テクノロジーを埋め込んだ組織の合理性の観点から事業部制を議論する。チャンドラーは「組織は戦略にしたがう」(structure follows strategy) と唱えたが、トンプソンは、さしずめ「組織はテクノロジーにしたがう」とでもいいたかったのであろう。第1章〜第3章は、その鍵概念「テクノロジー」についての基礎固めの章である。

 第I部に比べると手薄な感じになっているが、第II部については、その鍵概念「テクノロジー」をベースにした経営管理論が展開される。そのモチーフは、トンプソンが「サイモン=マーチ=サイアートの研究の流れ」(the Simon-March-Cyert stream of study) と呼んだ「新たな伝統」(a newer tradition) であろう (p. 9 邦訳, p. 11)。特に、意思決定モデルで経営管理論を再構築した有名なサイモンの Administrative behavior (Simon, 1947) とサイアート=マーチの A behavioral theory of the firm (Cyert & March, 1963) である。つまり、サイモン=マーチ=サイアートがやろうとした経営管理論の再構築は、この本の副題Social science bases of administrative theoryの通り、経営管理論の社会科学的基礎、すなわち「テクノロジー」的基礎の上でもできるはずだと試みたのが第II部なのである。

 この解説の続きは、参考文献に挙げた高橋(2013)で。 要約もある。なお、この本は2012年度に東京大学経済学部の学部ゼミで取り上げ、 学生が作成した要約 もあるので、それも参考になると思う。


《参考文献》

【解説】高橋伸夫 (2013)「ランダムではない行為の中に組織を見出す―経営学輪講 Thompson (1967)」『赤門マネジメント・レビュー』12(4), 327-348. ダウンロード


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